TENET テネット
『メメント』や『ダークナイト』、『インセプション』など、数々の名作を世に送り出してきた、クリストファー・ノーラン監督によるSFスパイ映画。以前からノーラン監督は、『007』シリーズに強い影響を受けていたことを公言していましたが、今作は従来のどんなスパイ映画でも、そしてどんなSF映画でも見られないような、斬新な映像表現が魅力です。スパイである“主人公”が言い渡されたミッションとは、「時間を逆行する」不思議な物体を調査し、第三次世界大戦の危機を防ぐこと。任務を進める過程で主人公は、撃たれたはずなのに元の銃に戻っていく銃弾、道路を全速力でバック走行する車、逆さ言葉で喋る人間など、常識では考えられないものに出会っていきます。なぜ物体の時間が逆行するのか? そして、なぜ主人公はこのミッションに選ばれたのか? 謎が謎を呼ぶ、スリリングな展開の先に、衝撃的な真実が待ち受けている――という映画です。現代では、CGによってどんな映像表現も可能になってしまいますが、『TENET』ではノーラン監督の執念により、可能な限りリアルにこだわった映像が観られます。例えば、中盤で飛行機が空港の建物に突っ込み、爆発するシーンでは、本物のジェット機を使用して撮影しており、映像に圧倒的な説得力が生まれています。この他にも、通常時間と逆行時間が同時に入り乱れるシーンなど、「どうやって撮ったんだ?」と思わされる映像ばかりです。そして、この映画の本当の魅力は、2回目以降の鑑賞時にあります。初見の時には気にも留めなかった些細な描写や台詞すらも、実は伏線だったと気付けるようになっており、改めてこの映画の、異様なまでの作り込みの深さを実感できます。もちろん、たとえ難しいことが分からなくても、美しい映像描写、耳に残るサウンドトラック、キャストの秀逸な演技など、あらゆる角度で楽しめる映画になっています。この映画を観る前と観た後では、きっと世界の見え方が根底から変わってしまうことでしょう。